能見俊賢氏の交通事故加害者と血液型の関係はホント? このページは、看護・医療科学1年生を対象とした生物学の講義の後解説です。 血液型を決める糖鎖と遺伝について解説しました。そのあと皆さんが興味ある血液型と性格について触れました。その後解説です。 講義でも触れましたが、作家である能見正比呂氏が提唱した血液型と性格に関連があるという説、その息子の能見俊賢氏が公表している考えについて本当かどうか検討しましょう。 能見俊賢氏はその Webページで交通事故加害者と血液型の関係について 、以下のように述べています。
と述べ、血液型と交通事故加害者に関係があるようなことを述べている。本当かな? そこで能見俊賢氏曰くカイ自乗検定、すなわち正しくは χ2乗検定 (χ はギリシャ文字で カイ、chi と読みます)の練習をしてみましよ。 Excel の使い方になります。 χ2乗検定 については 早稲田大学人間科学部・向後千春先生のページにわかりやすく書いてありますので、検定の意味・方法はこのサイトの ハンバーガーショップで学ぶ楽しい統計学 を見て勉強してください。 ここではExcel を使った検定方法を示します。Excel を使えば、χ2乗分布の表 やグラフ無しに検定結果(確率)が一発ででてきます。 χ2乗検定で、必要なものは、実測値(観測値)と比較されるべき値(理論値であったり、平均値であったり、期待値とよばれたりします)と、検定 の有意水準(科学では5%とか1%という値を使うことが多いです)。有意水準は自分で勝手に決める値です。これを20%としてもいいのです。しかし、この意味は5回やったら1回は生ずるということになり、あり得る事という意味にとられます。それでは自己満足は得られても他人の説得には使えないでしょ、ということです。 実測値(ここでは交通事故加害者の血液型の割合が、参照とすべき値(ここでは日本人の血液型の割合)と差が無いという仮説(帰無仮説;null hypothesis)を検証するということを行います。 「差があるようだ」という結論が出た場合、この結論がどの程度正しいかを、他の人に納得してもらうために数値で表現するわけです。5%というのは100回やって5回程度しか起こらない、かなり稀な現象だ、つまり偶然ではありえそうにも無い と表現する必要があるわけです。これを有意水準といいます。5%にしておきましょう。これは検定する前にあらかじめ決めておきます。 結論は、日本人の血液型の割合と比べると ○ 偶然ではありえないくらいの確率(0.05)で差がある=特定の血液型の人が交通事故加害者になりやすい・なりにくい(帰無仮説が棄却されると表現します) ○ この程度の差は偶然であって差は認められ無い=特定の血液型の人が交通事故加害者になりやすい・なりにくい とはいえない(帰無仮説が採択されると表現します) のどちらかになります。 後者の結論は、回りくどい表現です。科学では、肯定を AはBである と、否定を AはBであるということはいえない と表現して、 AはBではない と否定するような表現はできないのです。UFOがいる という結論か UFOがいるとはいえない という結論 のどっちかで、UFOがいない と結論できなのです。UFOの場合は、いまのところ、いるかいないかわからないというのが正しい結論でしょう。宇宙の彼方まで調べたわけではないのですから。 上記の表から全加害者の部分を抜き出し、Excel の表にします。 そして、同じシートの好きな場所に下の4つのセルを作っておきます。A は以下の説明に使うセルの名前のことですから、空欄にしておきます。
セルAを選択し メニュー の 挿入 から 関数 を選択します。 選択する関数は 統計の CHITEST です。 OK をクリックすると、実測値と期待値の範囲の入力を要求されますので、実測値範囲に、この場合は 35.6、34.3、19.6、10.5 という数値のの入ったセル (B2~E2)をマウスで選択すればいいことになります。 同様に期待値範囲は、この場合は日本人の割合ですから 30.7、38.1、21.8、9.4 の数値の入ったセル(B3~E3)になります。 入力して OK をクリックすると セルA のところに、確率が計算されてでてきます。0.679542893292875ですね。 結果は 0.68 ですから 0.05(5%)には遠くおよびません。 このくらいの差は10回やったら7回は生ずるくらいのよくあることだ、つまりこのデータの示す日本人の血液型の割合と交通事故加害者の血液型の割合の差は偶然であって、特に意味のあることではなさそうだという結論ですね。 すなわち、期待値(日本人の血液型の割合)と AUIの保険に加入して保険請求した交通事故加害者の血液型の割合とに差が 認められないという帰無仮説が成立しました。 これは、AUIの保険加入者に血液型の偏りがないとすると(そうでしょうね。血液型で保険会社を選択するとは考えにくいでしょう)、交通事故加害者に血液型による差があるとはいえないという結論がでたことになります。 車の保険は、年齢別に保険料が違います。若い人は事故を起こすことが多いという統計学的結論があるので、26歳以下の保険料は高くなっています。26歳を超えると保険料は安くなります。そうでもしないと保険会社は損するからです。 もし、能見俊賢氏の言うように血液型で加害者になる確率が違うのだったら、保険会社はO型の人の保険料は高くするでしょうし、A型の人の保険料を安くするでしょう。そんな保険会社聞いたことあります? 保険会社が血液型で保険料を決めるようなことはしていない理由がわかりますよね。 とすると、能見俊賢氏の O型が目立って多く A型がかなり少なく という主張は どこからでてきたのでしょうか? 能見俊賢氏は年齢別とか、運転歴別とかをみて結論したのでしょうかね?主張を通すためには都合の良いデータだけをとりあげるという典型です。十分注意しましょう。 決して交通事故加害者に O型人間が多いということは言えないのです。 各年代の確率も計算してみました。5%を下回るのは20歳未満と40歳代50歳以上でした。 では3つの年代では血液型と交通事故加害者になることに関連があるのでしょうか?これは慎重に対応する必要があります。20歳未満のAB型の血液の人が事故を起こすのは10万分の1だ、つまり「ほとんどありえない」なんていえるだろうか?O型の人は40歳代のときは事故を起こしにくいが50歳以上になると事故を起こす確率が高くなる? さらに10年後にもう一度検定してみて同じ結果が出るかどうかを調べないと結論はでません。多分10年後に同じことを調べると、今度は違ったパターンでどこかの年代に確率的に有意な差がでてくるでしょう。しかし年代に関係なく全部をまとめて検討すると、差は検出されないとでることを予想します。どうでしょうかね? ここまでの結論は、血液型と事故を起こしやすいかどうかには関連があるとは言えない ということですね。 |